ノルウェー ベルゲン国際映画祭 Cinema Extraordinaire Award 受賞
ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞 Best Director、Best Editing 受賞
セビリヤ・ヨーロッパ映画祭 Best Actor 受賞
ヘント国際映画祭 Georges Delerue Prize (Best Music) 受賞
トリエステ国際映画祭 SNCCI Award & Best Italian Film 受賞
家族、生活のために盗み売り、
子供ですら、タバコを吸い、酒を飲む。
境遇を忘れ去ろうとするかのように。
ロマたちの本当の生活に即した、
超ドキュメンタリスティックなドラマ。
Outline
出会いは盗み。ロマたちの非情な暮らし。
イタリアのラブリア州レッジョ・カラブリア県に位置するジョイア・タウロと呼ばれるコムーネ(=共同体)。そこにあるスラムと化したひとつの通り、チャンブラには大昔から差別を受け続けているロマという民族の一部の人たちが住んでいる。ロマは元々、旅をしながら暮らす流浪の民だったが、異教徒と揶揄されるようになり、移動や行商の制限を受け、さらには生活、福祉、教育、仕事、医療といった生活に関わるあらゆることの迫害を受けたため、劣悪な環境にも関わらずチャンブラに定住せざるを得ない状況にある。まともな職に就けないロマたちの生活手段は、他人の物を盗み、それを売ることである。術はそれしかないのだ。
『チャンブラにて』を監督したジョナス・カルピニャーノも2011年、ジョイア・タウロに訪れた際、ロマから撮影機材一式が積まれた車を盗まれた。その捜索をしている折、カルピニャーノ監督は『チャンブラにて』で見事に主人公を務め上げた14歳のロマの少年、ピオ・アマートと彼の家族に出会い、ロマの非情な生活、ピオの逞しさを知り、愛情と称賛の念を抱くようになる。アマート家の生活に超接近した数々のショットは間違いなく、監督のそういった感情の現れだろう。
Story
主に描かれているのはピオと家族、ロマの暮らしぶりである。ピオよりも明らかに年下の少年ですらタバコを吸い、酒を飲み、車を運転し、博打をし、ダンスミュージックが流れるクラブで踊り、大人に混ざって高笑いをする。救いがない。そんなことはどうでもいいと、すでに高を括っているかのように。しかし、盗みをして、早く家族の役に立ちたいと大人ぶるピオに対し、祖父は見守り、父は厳しい目を向け、母は嘆き、兄は止め、叱る。そういった状況にもがくピオの様子が至極、ドキュメンタリスティックに捉えられているのだ。
『チャンブラにて』にはもうひとつ重要な柱がある。それは、イタリアの南部からやって来たアフリカの新しい移民との関係である。ピオの親友アイヴァもそのひとりだ。母に黙って行動をするピオをアイヴァは時に兄の代わりに叱り、時に助け、ピオは彼の存在を求めるようになり、ふたりの距離は近づいていく。ただ非情なだけではない、ロマの人間としての感情が他者によって揺さぶられる。演者のほぼ全員がチャンブラの生活者、つまり演技に関してはプロではない人たち。彼らの本当の生活、関係性に基づいたストーリーとはいえ、自然な振る舞いに観る者は必ず、驚きと感動を覚えるはずだ。
親友によって揺さぶられる、ピオの感情。
左がジョナス・カルピニャーノ監督。
1984年生まれと若手ながら、『チャンブラにて』同様にイタリア南部を舞台とする、人種問題がテーマの長編一作目『地中海』(2015年制作)も高い評価を得ている。
Cast
Pio Amato | ピオ・アマート
Koudous Seihon | クドゥ・セイオン
Iolanda Amato | ヨランダ・アマート
Staff
監督
Jonas Carpignano | ジョナス・カルピニャーノ
エグゼクティブ・プロデューサー
Martin Scorsese | マーティン・スコセッシ
日程: 1月26日(土)
場所: 新宿武蔵野館
登壇者: 岡本太郎(ライター・翻訳家)*敬称略
公開を記念しイタリア文化に精通し、本作の字幕の制作・監修も手掛けられた岡本太郎氏を招き、公開記念トークイベントを実施。
大勢のお客様から拍手をもって迎えられた岡本氏に、本作で描かれたロマの人々や映画についての解説、そして映画をご覧になったお客様からの質問に答えて頂きました。
映画のタイトルにもなっているチャンブラという場所と、そこに住んでいるロマについて。「チャンブラというのは、カラブリア州のジョイア・タウロという街の郊外にある「通り」の名前です。通りの辺りをチャンブラ地区と呼んでいて、街からは結構離れている場所ですが、そこにロマたちは住んでいます。街や国によっても事情が異なりますが、カラブリアに関しては6世紀位住んでいるロマたちがいます。ただ一か所に定住せず、カラブリア州の中で移動していたのですが、30年位前にチャンブラという地区が出来て、今はそこに定住しています。色々なドキュメンタリーやニュースなどを見ますと、現在チャンブラには80家族位が住んでいるみたいです。」と解説。
監督自身、撮影機材の一式を積んだ車が盗まれ、その捜索過程でこの映画の主人公ピオや、その家族に出会ったというエピソードを語っていますが、映画に描かれたような車を盗むという事は、生活の糧として現実にある事ですか?の質問には、「映画の中で、主人公のピオが丘の上から見下ろす風景は、彼らが住んでいる団地のように見えますが、ピオ達が住んでいるのはその外です。実際にチャンブラには電気も通っていませんし、水も通っていなかった時もあるとの話もあり、かなり劣悪な環境ではありますが、真面目に働いている人たちもいて、皆が皆、盗みをはたらいている訳では無いです。基本的には自動車の解体作業等が彼らの仕事の主流になっているみたいです。その車も必ずしも彼らが盗んだとは限りません。映画の中で少し強面のイタリア人が登場しますが、恐らくこの映画の中では彼らは、カラブリア州のンドランゲタのマフィアであり、ロマ達はその肩棒を担がされているという形で描かれているのだと思います。」と回答した。
映画のリアリティについては、「基本的にチャンブラに住んでいる人達は、現地に住んでいる人達で、ピオや家族もそこに住んでいます。この映画は、決してドキュメンタリーではありませんが、それに近い形で描かれています。映画の中で祖父の葬儀のシーンがありますが、カルピニャーノ監督がピオにあった時、祖父が亡くなった状況だったらしく、それを映画にも反映させるなど、現実の下敷きがありますね」とコメントした。
続いて、お客様からの質問コーナーになり、「彼らの話している言葉は何語ですか?」の質問については、「この映画の中ではカラブリアの方言を話しています。別の監督が、彼らが話しているのはカラブリア方言な上に、ロマの語彙が入っていると語っていましたね」など、続々と挙がる質問に答えて頂きました。
お客様はロマの人々や映画で描かれたシーンの解説など、多岐にわたる岡本氏の話を聞きながら、より深く映画を楽しんで頂けた様子で、大盛況のうちにイベントは終了致しました。